英国王給仕人に乾杯!

映画「英国王給仕人に乾杯!」公式サイト
駅のソーセージ売りが、大富豪に「君も百万長者になればいいじゃない」とけしかけられ、その気になる話。
突然思い立って観に行ったので情報はまったく仕入れていなかったのだが、二百年くらい前の話かと思ったら意外と近代の話で、第二次世界大戦前と後それぞれ三十年ずつくらいの話だった。主人公はジョージ・ジョースターII世とだいたい同世代くらいだろうか。
給仕のとき仲の良くない先輩に足を引っ掛けて転ばせて辞職に追い込んだり、給仕長に授与されるはずの勲章をかすめ取ったり、チェコ人でありながらも簡単にナチ党に擦り寄って役職をもらったり、ユダヤ人のいなくなった豪邸から切手を盗んで売りさばいたりなど、人間としては凄まじく黒いうえに特に主張もない人物なのだが、そういったシーンが淡々と流されるに当たって、ノホホンとしたツラ構えとの相乗効果であまりそういう印象はないまま終わった。面白い見せ方だ。
日本ではこういうとき「強欲に生きた今までの人生よりも、その結果としての今、古馴染みと飲む泡だらけのビールと塩味の効いたソーセージの素朴な美味さといえばどうだろう」というような結論に達した場合も「俺の人生も捨てたものではなかった」というよりは「強欲に生きた今までの人生に対する空虚さと対比した質素で満ち足りた現在」というべきものが前面に出てくることが多いわけだが、そうはならないあたりが欧州との空気の違いといえるわけだな。
しかしこういう、いくらかフォローは入っているとはいえ、ナチス内部に入って甘い汁を吸う小物、などという主人公像は珍しいな。フランス映画とはいえ、欧州でのナチス認識は俺が思っているよりもずっとナチュラルなのかもしれん。