Story seller

Story Seller (新潮文庫)

Story Seller (新潮文庫)

短編集というか、アンソロジー? 的なもののようだ。面白い話売りますなどと煽っているのだが、しかし大きく出やがったな。かかってこいッ
あ、ちなみにネタバレがあるので、読む気になっている人はご注意。この程度の本を1冊読むのに2週間かかったので、どういう評価かは知るべしという具合ですよ。

ゴールデンスランバーの人? ほー。複線の回収に定評のある人ということで、実際、僕はこのあたりの作家さんの本を読んだ経験はほぼ皆無といっていいレベルなのだが、なるほど、話そのものが面白かったかどうかというのはさておき、確かに複線の回収はキチンとしている。
これを面白く感じないのは、どちらかというと俺の読んできた本が今まで偏り過ぎていたからに過ぎず、まあ、読む人がちゃんと読めば普通に面白いのではかろうか。

スポーツ漫画とかでもよくあるけど、トップエースの座を守るためにレース中に蹴りいれてきたりとかって、実際どうなんだ。話が作りやすいというのは良くわかるし、そっちに走りたくなるのもわかるが、しかし実際ありえるのか。なんかもう(俺の中で)ファンタジー過ぎて話にのめり込めない。
全体としてはまあ悪くない、という出来なのだろうが、そもそもこの手の短編小説を面白いと思ったことのない俺が読んでもさして思い入れが出来るような類のものではなかった。

世に言う「スイーツ(笑)」と呼ばれる創作物そのものであり、不幸な境遇とか、不治の病とか、精神崩壊とかの挙句にヒロインが不幸のどん底で死んで終わり、みたいな話が好きな人は是非お読みになればよろしいが、俺などは部屋の隅で鼻糞でも喰っていたほうが幾らか建設的な時間であったろうと思えてならない。中盤から終盤にかけての主人公たちの描写のことごとくが「高校生がイライラしているときに脳内で展開する罵詈雑言で相手をやり込めるシーンからの引用」みたいになっており、間違っても健全な社会人が読むような程度の文章ではない。
あげく、どうやら図書館戦争の作者らしいあたりが俺を打ちのめす。マジかよ、まだ読んでないのに、手元にハードカバー版の1巻が既にあるのに。うわーうわー。どうしよーかなー。

直前が直前であっただけに口直しみたいな意識があった可能性は否定しないが、こっちは面白かった。伝奇的というか、ストーリーもキャラクターも別段珍しくはなかったが、しかしこの本のなかでまともな小説の体裁を保っているのが「首折り男の周辺」とこれくらいというのが悩ましい。
なにぶん俺はこの手の短編を読んだ経験がほとんどないだけに何処がどう面白いのかというのが難しいが、他の作品と違って、五十鈴の行動は異常ではありつつ説得力もある、という最低限のラインがしっかり引けているという、単にそれだけの、いわば地力の違いのような気がする。短編のなかでも「ああ、五十鈴ならもしかするとやるかもしれない」という共通認識を作り上げるというのは筆力によるものだろうと思うが、この人の本だけは他にも読んでみていいと思った。いや、伊坂さんのも読んでみていいかもしれんな。

かつて主人公が殺人鬼だったので平穏な現実がこのうえなく美しく見えるとか、そういうのはもう飽き飽きなんですよ。実は犯人も被害者も全員がグルでしたとかはまだいいとして、犯行手段が「気合」とか、世が世なら抜刀突撃を考えるレベルぞ。筆力はそこまで酷くはないんだけどなー。なんんでこうなっちまってんのかなー。
ミステリかと思ったら単にギャグでした、とでもいうべき話であり、まったく意味もなくはいる恋愛描写とかマジ勘弁してください。

これを読んでいるときは仕事がまさに忙しくて、いっきに読むことが出来なかったばかりか肝心要なところをブツ切りにして何度かにわけて読んでしまったのだが、もしそうでなかったら俺は大好きだったろうという話だった。ntr的な意味で。いや、実際には全然違うんだけど。もう一度読み直してみようか。

あの男はテレポートが使える、と思い込んだ頭の弱い女の子が偏執的にこれを追いかけた挙句に誤解を解くまでの話。主人公の行動や思考そのものにまったく説得力がないので、終始「なにやってんだこいつ」という気分で読み終えた。
終了後に恋愛感情を匂わせるあたりは、なんというか、作者自身がこういう「様式美」に酔ってるとでもいうのか。描くんならちゃんと描くで、もっとちゃんとして欲しかった。