思えば子供のころというのはやるべきことが山ほどあって、メシもおなかいっぱい食べねばならず、外に遊びにもいかねばならず、友人の家にも遊びにいかねばならず、ゲームもせねばならなかったし、漫画も読まねばならなかったし、小説も読まねばならなかったし、川でも遊ぶ必要があり、山でも遊ぶ必要があり、野を駆け回る必要もあり、だからといってオヤツを食べることを疎かにするわけにも当然いかず、……といった具合で毎日が眼が回るほど忙しかった気がするが、最近はそうでもない。
よくない傾向だ。非常によくない傾向だ。昔ながらの友人と話していると「信じがたいほど子供のころのことを覚えている」と言われることがよくあるのだが、それは毎日が恐ろしく楽しかったからに違いなく、翻ってみれば十年後に今の生活を事細かに覚えているかどうかと問われるとどうにも自信がない。そして実際に大学時代の生活の毎日を語れといわれても、さほど特筆して言うほどのことはしていなかったように思える。わずか五年前のことでさえ既に曖昧に!
よし、奈良へいこう。いかねばならぬ。あの日々の彩りを取り戻さねば。