人斬り半次郎(幕末編) (新潮文庫)

人斬り半次郎(幕末編) (新潮文庫)

うーん。何冊も読んだことのない作家の作者買いはするもんじゃないねえ。
中村半次郎のキャラ造詣がどーも気に入らんのだなあ。尊敬した相手に赤ん坊のごとく甘えるとかいう設定も露骨に狙い過ぎていて正直なところいくらか気味が悪いほどであるし、女関係のすれ違いとかいうどうでもいい内容を延々と描かれても、少なくとも俺はそんな内容を読みたくて「人斬り半次郎 幕末編」などという勇ましいタイトルの本を買ったわけではない。ましてその間に幕末の動乱が描かれるような風情であれば面白いなどと思えるわけもないのだが、各地で普通に絶賛されているあたり、俺の感覚は少しおかしいのかもしれん。
つうかキャラ造詣そのものは吉川英治の「宮本武蔵」とほとんど同じだな、これ。武蔵は禁欲的で半次郎はそうではないという違いはあるにせよ、どちらもそうだが、つまりこういうストイックなスーパーマンが好きな一定層の支持があった、ということだろうか。
宮本武蔵」のときはここまで具体的に言葉にはでてこなかったが、こちらの中村半次郎は記号的過ぎる。尊敬する相手には無条件で赤子のように甘えるとかいう中学生が考えるような設定も相当にどうかと思うが、それにともなう「はアい」という鼻にかかった声などというのはほとんど気味が悪いといっていいくらいだ。情熱的で、ハンサムで、無限のバイタリティを持ち、学習能力に優れ、なにをやらせてもうまくやり、貧乏のどん底からスタートするが差別意識のある連中を叩きのめして追い抜いて瞬く間に幕末の重要人物のひとりとなる、とかいうのはそれはそれでいいかもしれないが、しかし同じくらいそれはそれでよくはない。人間味がまるで感じられないうえに数少ないそういう要素のことごとくが記号的であるため感情移入がまったく出来ないのは致命的だ。
いやあ、つうか何度も書くようだが、これ人気があるんだなあ。信じられん。「戦国幻想曲」は面白かったのに、割と有名なこれがこの面白さであるとするのなら、真田太平記はどーなのかなー。まあ、とりあえず賊将編も読むかー。